笑顔がくれた宝物

定年後の「やることがない」を笑い飛ばしたら、毎日が面白くなった話

Tags: 定年退職, セカンドライフ, ユーモア, 自己肯定感, 前向き

定年後の空白時間と漠然とした不安

長年勤めた会社を無事退職し、第二の人生が始まりました。これからは自分の好きなことに時間を費やせる、そう思っていました。しかし、いざ自由な時間が手に入ってみると、何から手をつけていいのか分かりません。朝起きてから夜寝るまで、「やることがない」という漠然とした感覚に襲われる日が続きました。

現役時代は、朝から晩まで仕事に追われ、休みの日もあれこれと用事がありました。それがなくなり、ポッカリと大きな穴が空いてしまったような気分でした。テレビを見ても内容は頭に入ってこず、新聞を読んでも集中できません。社会から切り離されてしまったような孤独感や、このまま時間が過ぎていくだけではないかという不安が、心の奥底にじわじわと広がっていきました。

妻はパートに出ていますし、子供たちはすでに独立しています。家に一人でいる時間が増え、誰かと話す機会も減りました。この状況をどうにかしたいとは思うものの、重い腰が上がりませんでした。

「大きな粗大ごみ」と言われて

そんなある日のこと、妻が冗談めかして私に言いました。「あなたね、最近家にいる時間が長すぎて、まるで大きな粗大ごみみたいになってるわよ。」

最初はカチンときました。一生懸命働いてきたのに、なんだその言い方は!と。しかし、よく考えてみると、ソファでぼーっとしているだけの自分の姿が目に浮かびました。確かに、生産的なことは何もしていません。妻はきっと、私がこのままふさぎ込んでしまうのを心配して、あえて明るく言ったのかもしれない、そう思えてきました。

そして、なぜかその「大きな粗大ごみ」という表現が、自分で考えても面白く感じられてきました。ああ、俺は今、文字通り家に転がっているだけの「粗大ごみ」状態なのか、と。自分の状況を客観的に、そして少しユーモラスに捉えられた瞬間でした。妻の言葉に怒るのではなく、一緒に笑ってしまったのです。

失敗談を笑いのネタにしたら楽になった

この出来事をきっかけに、少し気持ちが軽くなった私は、何か新しいことを始めてみようと決意しました。地域の陶芸教室に顔を出してみたり、ウォーキングを始めてみたり。しかし、どれも長続きしませんでした。陶芸で作ったお皿はひどい形になり、ウォーキングは三日坊主どころか一日で終わりました。

昔だったら、こういう失敗には落ち込んでいたでしょう。自分は何をやってもダメだ、才能がない、と。しかし、今回は違いました。これらの失敗談を、昔からの友人に会った時に面白おかしく話してみたのです。

「いやー、この前陶芸やってみたんだけどさ、出来上がったのがこれだよ!まるで宇宙から来た未確認飛行物体だろ?」と言って写真を見せると、友人は大笑いしてくれました。ウォーキングの話も、「あのね、家から出て5分で息切れして、結局コンビニでアイス買って帰ってきたんだよ」と話すと、また笑いが起こります。

不思議なもので、自分で自分の失敗談を笑い話にすると、全然恥ずかしくなくなりました。むしろ、こんなに笑ってもらえるなら、失敗も悪くないな、とさえ思えてきたのです。完璧じゃなくてもいい。失敗しても、それをネタにして笑いに変えれば、自分自身も周りも明るくなる。そう気づいてから、新しいことへの挑戦のハードルがグッと下がりました。結果を気にしすぎず、まずはやってみよう、ダメなら笑い話にすればいい、と思えるようになったのです。これは、自分を肯定する小さな一歩でした。

ジェネレーションギャップも笑いに変えて

地域のボランティア活動にも参加するようになりました。そこには私よりずっと若い世代の人たちもたくさんいます。話していると、価値観や考え方の違いに戸惑うことも少なくありませんでした。

最初は、「最近の若い人は何を考えているんだろう」と少し否定的に見てしまうこともありました。しかし、ふと、「これもまた、笑い話のネタになるんじゃないか?」と思いついたのです。

例えば、最新の流行語が分からなかった時の、自分のキョトンとした顔を想像したり、スマホ操作で手間取っている様子を自虐的に捉えたり。ジェネレーションギャップを「壁」として捉えるのではなく、「面白い違い」として見るように意識しました。すると、若い人たちの言動が、苛立ちの対象ではなく、興味深い、時にはクスリと笑える対象に変わっていきました。

自分から若い人に「今の言葉はどういう意味?」「このアプリの使い方、教えてくれる?」と、分からないことを素直に、そして少しおどけて聞いてみるようにしました。すると、若い人たちも気軽に教えてくれたり、一緒に笑ってくれたりするようになったのです。ユーモアを挟むことで、世代間の壁が低くなり、むしろ新しい人間関係が円滑になったと感じています。

ユーモアがくれた人生の宝物

定年後、「やることがない」という状態から始まった私の第二の人生は、ユーモアという魔法のスパイスによって、全く違う色に変わりました。

以前は、完璧主義で、失敗を恐れ、周りの目を気にしてばかりいました。しかし、自分のダメなところや失敗を隠すのではなく、笑いに変えることで、自己肯定感が少しずつ高まっていきました。「こんな自分でも大丈夫」「失敗しても、それはそれで面白い」と思えるようになったのです。

ユーモアは、困難な状況を乗り越える力になるだけでなく、自分自身を受け入れ、周りの人との関係を豊かにしてくれる宝物です。時間はたっぷりあっても、何をしていいか分からない、孤独を感じる。もし、あなたが今そんな風に感じているなら、ぜひ日常の中に小さな笑いやユーモアを見つけてみてください。

人生の後半期だからこそ、肩の力を抜いて、自分自身のことも、周りの出来事も、ちょっと引いたところからユーモラスに見てみましょう。きっと、予想もしなかった新しい発見や、心が温かくなるような出会いが、あなたを待っているはずです。笑いは、どんな時もあなたの味方になってくれますよ。